緑豊かな美しい日本の再生〜新たな森林管理システムの構築

(財)森とむらの会 (文責 当会代表古橋源六郎、理事加藤鐵夫)

 森とむらの会では、2000(平成12)年に森林・林業政策全般にわたって「森と木とむらに関する基本政策」12の提言を行ってきたところであるが、京都議定書が本年2月16日に発効したことと合わせ、おおむね5年毎に見直しを行うとされる「森林・林業基本計画」が近々改訂される時期を迎えることを踏まえ、主として森林整備と国産材利用の推進について新たな具体的な方策を提言する。
※提言の概要(Wordファイル)

はじめに

 温暖化をはじめ地球環境の限界が顕在化して以降、人類は歴史的な新しい時代に直面している。人類は、これまでもその生存を脅かす自然環境の厳しさには幾たびとなく遭遇してきているが、現在の状況は、これまでと異なっている。人間生活に影響する地球的な規模の問題がこれまでになく急速に現実化すると予測されているとともに、その脅威を人間の活動自体が作り出している。この状況を改善していくためには、これまでの経済優先の人間活動を見直し、活動に取りかかる前にそれが環境にどのような負荷を与えるかを考慮することが求められている。1992(平成4)年ブラジルの地球サミットでの「持続可能な開発」の理念はまさしくこのような点にあると理解される。

 このことは、環境の重要な要素である森林についてより強く認識されてきている。同会議において森林原則声明が併せて採択され、世界的に「持続可能な森林経営」を推進することとされた。その後のモントリオール・プロセス等では、生物多様性の保全、森林生態系の生産力や健全性の維持、土壌及び水資源の保全、地球的炭素循環への寄与等がその内容として具体的に取り上げられている。
わが国におけるこれまでの森林と人との関わりを振り返れば、縄文から戦国時代の頃まで続く、生活の主要部分を「森林に依存する時代」から、城下町の造成や江戸開府などに伴い都市化が進み木材需要が増加し、木材を市場に対して供給する「消費経済化の時代」を経て、第二次世界大戦後には燃料革命という木材需要の大変化とともに、人口増加や高度経済成長に伴う木材需要の拡大により「国産材では供給が不足し外材が主流を占める時代」になる。この間、国土の保全等森林の持つ公益的機能の発揮について配慮しながら、全般的には森林に対する恐れや敬いを徐々に失いつつ木材生産が優先されるとともに開発も進められてきた。

 それが、現在では「環境保全時代」ともいうべき時代を迎えており、国においては、この新しい時代に対応して、2001(平成13)年にこれまでの林業基本法を改正し、森林の多面的機能の持続的発揮を第一義とする森林・林業基本法を制定された。このことは、木材生産を中心としてきた従来の森林・林業政策の歴史的転換を図ったものであるといえる。

 しかしながら、1980(昭和55)年以降の木材価格の低迷等により、森林整備を支える林業は壊滅的な状況にあり、山村は、過疎化、高齢化等によって崩壊の危機に立ち至っている。森林への関係者の関心は低下し、森林は手入れもされないまま放置されはじめている。

 森林・林業基本法の制定以降、各種施策の充実が図られているが、このような事態は、なお悪化してきていると言わざるをえない。このため、現代における森林の価値の認識を基本に、この事態を打開し、手入れがされずに荒廃してきている森林を、多様な森林として蘇らせ、将来にわたってそれを持続させていく基盤を早急に作っていくことが必要となっている。

 成熟社会に向かうわが国において、その豊かさを真に実感させるのは、美しい国土とそこで育まれる固有の文化の存在であり、多様な森林といきいきした山村はその基礎となる。

 森とむらの会では、2000(平成12)年に森林・林業政策全般にわたって「森と木とむらに関する基本政策」12の提言を行ってきたところであるが、京都議定書が本年2月16日に発効したことと合わせ、おおむね5年毎に見直しを行うとされる「森林・林業基本計画」が近々改訂される時期を迎えることを踏まえ、主として森林整備と国産材利用の推進について新たな具体的な方策を提言する。

1.森林の管理・経営の現状と課題

 「持続可能な森林経営」を具体化し推進することが、世界的な課題になっている。

 森林は、多くの動植物等の生息の場所であり、森林の確保と適切な管理・経営が生物多様性の保全に重要な役割を果たす。また、生産力の高い森林は、炭酸ガスを吸収しそれを固定、貯蔵する。森林から産出される木材は、再生可能でカーボンニュートラルな、しかも低エネルギーで製品化できる資材であり、その使用は化石資源の消費を抑制し炭酸ガスの排出を減少させる。森林は、洪水を調節し水源を涵養して水の有効利用を促進するとともに、川や海の魚や貝を養育する。さらに都市化、高密化が極度に進展している現在、健康や精神的な安らぎ、あるいは幼少年期等における自然環境教育の場として、森林とのふれあいがこれまで以上に求められている。

 また、わが国の美しい景観は、森林や農地によって構成されているが、生活や文化を支える景観の持つ価値が改めて重要視されてきている。それだけでなく、わが国は、森林を保全しながらそれを有効に利用していくという知恵や技術、生活様式等特有な森林文化を育んできており、この森林文化のあり方はこれからの望ましい資源循環型社会、持続可能な社会の規範となる。

 このような多様な役割を果たす森林であるが、現在、世界的に様々な問題が生じている。熱帯地域では、過放牧や焼き畑、過度な伐採等により森林が消失し、疎林化や砂漠化が進行しており、温帯では、大規模な森林火災や大気汚染による森林の立ち枯れ等がみられている。

 わが国においては、木材価格の低迷、国産材需要の減退等により、森林への経済的な関心は失われ、手入れもされずに放置されはじめている。

 国産材価格をみれば、1980(昭和55)年をピークとして年々下落し、2003(平成15)年には、立木価格で5分の1、丸太価格で3分の1となっている。一方で林業労賃は1.4倍になっており、皆伐をしても再造林する経費が出ない、間伐しても収入にならずさらに費用の持ち出しになるという状態となっている。

 緑に見える森林も中に入れば、枝が枯れ、細い木が並び、暗く下層植生も育たず土壌の流出が心配される。あるいは皆伐されても植栽されず笹生地等になってきている森林もある。不在村所有者の増加等により自らの所有森林の境界がわからなくなり、相続もされず所有者が不明という事態さえ生じている。
そのうえ、それらのことがさらに新しい問題を引き起こしている。放置されていることに乗じてゴミの不法投棄がされ、美しい景観が台無しにされている。最近の気象異常の中で降雨が集中豪雨化してきているが、その被害として土砂崩壊とともに流木災害が目立っている。集中豪雨の後には、ダムに流木が堆積しその除去に少なからぬ経費をかけなければならないという事例もある。シカ、イノシシ、クマ等が人家の近くに出没し、農産物等に被害を与えるのみならず安全上問題とされる事件も頻発しているが、その原因の一つとして里山の荒廃があげられたりしている。花粉症についても、スギの一斉造林が進められたこととあわせ、手入れがされないことが花粉量を増加させているとされる。タケノコを採取しなくなった竹林は、地下茎をはびこらせ周囲の植生の生育を阻害している。

 これまでの森林の管理・経営は、木材生産を中心にそれが適切かつ継続的に行われれば、他の公益的機能もおおむね適切に発揮されるということを基本に、森林所有者等の努力によって行われてきた。しかし、経済的価値の低下に伴い、森林所有者等の森林への関心は薄れ、そのシステムが機能しなくなっている。本来、森林を所有する者が持たなければならない管理義務=所有者責任が放棄されてきている。

 木材価格の低迷及び国産材需要の減退を招いた要因を改めて考えれば、次のようなことがあげられる。

@科学技術の発展やコストダウンにより、建物をはじめ種々な資材に木材以外のコンクリート、鉄、アルミ、プラスチック等が使われるようになり、木材はこれらと競合することになったこと。

A外材輸入が拡大するとともに、円高の進展により外材が相対的により低価格になったこと。

B住宅の洋風化等に伴い、大壁工法の普及、利便性や気密性等の機能性重視、部材のプレカット化等の変化が進む中で、乾燥材に加えて合板や集成材等工業製品的な利用が増加していること。そのため、国産材の価格形成に関連した光沢とか色あいとか年輪の緻密性とかいった工芸的価値が評価されにくくなり、それにかわって強度の安定とか、狂いが少ないとかいう品質や性能が求められていること。

Cわが国の林業、木材産業が、高コスト構造になっていること。

 わが国は、地形が急峻で谷密度が高く、作業を集約化することが容易でない。林道の開設についても曲線が多く法切を生じ、開設や維持のコストが高くなるとともに、大型トラック等の運行が制約される。さらに低スピードで走らざるをえないため、時間距離は極めて長くなる。そしてなにより、わが国の林道整備はそもそも遅れている。

 森林造成についても、温暖で雨量が多く下草などが繁茂しやすいため、植栽木を保護する下刈り等に多大の人役を要している。このため、欧米の造林コストと比較すると5〜10倍程度になるとされる。
この他に社会的条件として小面積、分散的な森林所有構造となっている。

 また、木材産業についても、小規模で多段階の加工・流通体制となっている。

 以上のように現在の国産材の低迷は、構造的な要因によるところも多く、森林施業のあり方も含めコスト削減に最大限の努力をすべきであるが、国産材の優位性を作り出すことは容易でない。また、これらの状況は、円の為替レートの動向、世界の木材需給動向等によって変わりうるが、それを別として、外材のみでなく他の資材とも競合しており、さらに工業製品的な利用が増大していることなどからみて、国産材だけのかつてのような価格上昇を期待することは困難だろう。

 さらに、森林の多面的機能の発揮を図るためのきめ細かな森林施業を行っていくに当たっては、長伐期複層林化、針広混交林化、広葉樹林化等を進めていく必要があるが、これらの施業は、天然力の活用等をできるだけするとしても、経済的生産という点でみれば非効率にならざるをえない面がある。

 それらのことを考えると、今後において森林の多面的機能の持続的な発揮を図る適切な管理・経営を進めていくためには、多面的機能の持続的な発揮という公共性に鑑み森林を公共財として、森林所有者等のみならず国民全体で支え管理していく新たなシステムを作り上げていくとともに、適切な管理・経営を行った結果生産される木材については、森林整備の推進に資するのみならず、循環型資源としての木材の意義を理解し、その利用を推進していくことが必要である。

2.国民に開かれた森林計画の作成

 全国に分布する森林を国民全体で支え管理・経営していく新たなシステムを作り上げていくに当たってまず重要なことは、どこにどのような森林を作り上げていくか、そのために進めるべき森林施業は何かということについてわかりやすく国民に説明し、それらについての国民的合意の形成に努めていくことである。その手段としては、これまでも国民の意見も聴取しながら森林計画が作成されてきた。しかしながら、現在の森林計画の作成については、幾つかの問題点があり改善を図っていく必要がある。

 その第一は、わかりやすい計画の作成についてである。現在の森林計画制度では、わが国全体の森林整備の方向を明らかにしている全国森林計画に基づき、それぞれの地域の実情を踏まえて地域森林計画及び市町村森林整備計画の作成が体系付けられてきた。また、その内容としては、それぞれ森林整備の方針、計画年度内の目標及びそれを達成するために必要な事項等が示されてきた。しかし、例えば、間伐、造林等の目標が数値として掲げられているが、そのことがどのような意味を持つか、なぜその目標を進めていく必要があるかなどについて、計画書のみで読み解くことはできがたく、また、どこで何がされようとしているかを具体的に知ることも難しい。つまり、どのような森林づくりをしようとしているかという森林づくりの目標とそれに向けてどのような整備が必要かという事業量の計画との関係を関連付けて理解することが容易でない。今後においては、特に即地的計画である地域森林計画や市町村森林整備計画においては、森林GISをはじめ新たな計画手法の導入と活用を図りながら、より属地的に計画内容等を明らかにしていくよう努めるべきである。そのことが数値目標の意味をわかりやすくするとともに、それによって何を目的にしているかが明らかになり、その必要性が理解されることになる。また、このことにより、国としての全体的な森林整備の方針と地域の即地的な森林の取扱いの方向が調整され、より調和的なそれぞれの計画が作成できることとなる。さらに、そのことは、より実効性のある計画の作成につながる。なお、実効性を高めるためには、このような具体的な計画の作成と併せて計画の実行結果が整理されその評価が行われることが必要である。現在では実行が予算の確保と連動しているとしても、何ができ何ができなかったか、その原因は何かということを明らかにする必要がある。

 第二は、森林情報の整備についてである。森林所有の境界が不明確になってきていることや森林現況が現地調査ではなく空中写真や成長曲線による試算数値等によって把握されることが多くなってきていることから、現況の把握が不正確になってきている。このため、基本的には、現在進捗率が4割弱程度である地籍調査の推進を図る必要がある。また、森林の多面的機能の発揮の観点に立つと、これまで整備されてきた情報はどちらかといえば木材生産に係わるものに片寄っており、例えば生物多様性の保全という点からみれば、下層植生や野生鳥獣、昆虫等の生息状態等が把握される必要があるように、より多岐にわたる情報の整備が求められている。このため、国においても、空中写真を平面図化したオルソフォトマップの作成、森林資源モニタリング調査の実施、地球温暖化防止対策における検証報告体制の整備等により精度の確保、情報の収集等に努められているが、森林担当部局のみならず、河川、野生生物等広範な関連機関が有する情報の総合化も図りつつさらに充実に努めるとともに、情報の把握と更新をするシステムの再構築を行う必要がある。特に情報の把握については、住民や森林ボランティア、環境団体、教育機関等の協力を得る方策についても検討する必要がある。さらに、把握された情報については、できる限り公表されるようにしていくべきである。個人情報保護との関係もあるが、森林が公共性を高めていることに鑑みれば、森林所有者等の積極的な協力が望まれる。また、この場合、個別的、地域的な情報の公開のほか、全国的に集約される情報等をもとに5年に一度は全国や地域の森林の姿を様々な視点から分析し、国民に現状を明らかにするようにすべきである。

 第三は、森林施業に関する技術的ガイドラインについてである。これまでの林業技術は、木材生産を中心とする技術体系となっているが、これからはより多様な施業の実施が必要とされる。それらについては、森林計画において基準的に技術上の留意事項が示されるが、そのことで具体的な作業が行いうるとはいえない。例えば、針葉樹と広葉樹の混交した森林を造ろうとした時、具体的にどのような木を残しどれを伐採すべきかについては、それぞれの視点からいろいろな議論があるだろう。従って、これまでの施業を見直し、より多様な施業を普及していくためには、大まかな類型化を行いつつマニュアル的なガイドラインを作成し、それぞれの現場での地域に即した議論に供していくことが必要である。その積み重ねにより技術の定着を図らなければならない。その役割を森林計画が果たす必要がある。

 第四は、国民の意見の聴取についてである。森林計画の作成に当たっては、審議会の開催やパブリックコメントの実施等により国民の意見の聴取が行われてきているが、結果からみれば限定的であることは否めない。現在では都市化が進み、国民にとって森林は日常的に利用する空間ではなく保養やレクレーションとしてほんのたまに訪れる場所になっている。いわば、日常的には森林は遠くから眺めるものとなっており、森林に何が起きているか、どうされようとしているかということにまで関心を持つことはほとんどなくなっている。そのような国民に森林への関心を持ってもらい、森林に対して積極的な対応をしてもらうことを求めるとするならば、これまでのような受け身の形ではなく、計画作成者が説明責任を果たすとともに積極的に意見を求める形をとることが必要である。森林計画は、林業的あり方に限定されるものでなく、公共性を持つ森林のあり方を考えるものであり、国土計画でもあり、環境保全計画でもあり、地域振興計画でもある。つまり、森林計画は総合的計画であり、行政の森林担当部局や森林・林業に直接関わる者だけでなく、できるだけ幅広い者の参画を得て作成されるべきである。そのことを念頭に、審議会のみならず、下流域も含め、住民への説明会等をはじめ例えば大学、高校等の教育機関や農協、漁協、商工会、観光協会、自主的に環境保全等の活動をする民間グループ、木協、大工・工務店や建築家等の木材ユーザー団体等森林に関わりがあり得る団体等へパンフレットの配布や意見照会等、それぞれの地域でそれぞれに応じた方法を工夫しながら、より積極的な対応がされる必要がある。同時に、森林所有者等においても、森林の公共性を持続的に発揮することは森林所有者本来の責務であることを自覚し、森林計画の作成段階から望ましい森林とその管理、経営のあり方について主体的、積極的に提案すべきである。

 第五は、森林計画の作成体制についてである。これからの森林計画は、森林の現況把握、多様な森林施業の検討、専門家等の意見聴取、森林所有者等との調整、国民への説明等多岐にわたる業務について技術的裏付けを持ちながら長期的視点に立ち総合的に進めていくことが必要になる。しかしながら、例えば市町村でいえば、そもそも森林・林業行政に従事する職員の数は限られており、技術的知識と経験を蓄積する機会も少なく、期待される能力を身につけることは容易でない。従って、それぞれの行政主体が計画を作成するという建前のみで、良好な計画を立てることは困難である。そのため、思い切って森林計画の作成作業を森林に関して多方面の知識や調査能力を持つ専門的な機関に委託することを検討すべきである。専門的機関としては調査コンサルタント等のほか、後述するセンターによることも想定される。いずれにしても専門的機関の作業を踏まえて、最終的には行政が主導的に作成するということが実際的である。

 以上ここまで森林計画の作成について提言してきたのは、森林計画が、これからの森林整備の基本方針を示すものであるとともに、国民に森林への具体的な関心を惹起できる有効な文書となりうるからである。このような森林計画の作成については、これまで以上の多大な労力や時間さらに経費をかけなければならないが、その過程を通じて、森林所有者等はもとより、より多くの幅広い専門家や国民に参加してもらうことができれば、それを基軸として、森林を支えていこうという大きな環が広がることになる。森林計画の意義を今一度見直すとともに、それに即した森林計画の作成に努力すべきである。

3.森林整備の的確な実行

 以上のように作成された森林計画をどのようにして的確に実行していくかが次の課題である。森林整備については、森林所有者等の林業生産活動によることが基本とされてきたが、既にみたようにそれによって適切な森林整備を期待することが困難な状況になってきている。森林造成の50年以上に及ぶ長期性からすれば、必ずしも林業が、投資対象として経済的意識を持って行われてきたとはいえないが、森林を造成すれば、将来、息子か孫の代には安定的な富がもたらされるものとして確信されていたことは間違いない。その期待において森林造成が行われ、それがわが国の森林を整備することになっていた。しかし現在では、その確信が損なわれてきている。

 これまでも林業生産活動による森林整備については、そのことが同時に森林の公益的機能の発揮になることから、助成が行われ事態の変化の中でその充実が図られてきた。現在では、林道の整備はほぼ全て公的になされるとともに、造林や間伐、作業道の作設等に要する費用については、5〜7割が国、地方公共団体から実質的に助成されている。しかしながら、3〜5割の自己負担分についてさえ、森林所有者等が重い負担感を持つようになってきており、森林所有者の所有目的や資金負担力等によって、助成による誘導効果を発揮できない現実が深刻化している。

 このことからすれば森林の多面的機能の持続的発揮を図っていくためには、天然力の活用等による森林施業の効率化、国産材利用の促進や生産、加工、流通の合理化による森林所有者への経済的利益の還元、あるいは森林の保健休養的利用や森林体験等木材生産以外の多様な産業の創出等に努め森林所有者の意欲の向上を図るとともに、一方では費用を全額公的に負担して実施する公的実施の拡充を図る必要がある。

 公的実施としては、現在、都道府県が治山事業として行うもの及び緑資源機構、森林整備法人が行うものがある。このうち、治山事業については、指定目的が達成できなくなっている保安林の機能の回復を目的としており、緑資源機構については、粗悪林相地等を対象に水源をかん養するために森林の造成等を行うものである。また、森林整備法人については、森林所有者による整備が進みがたい箇所を分収方式で整備してきたものであるが、現在、都道府県毎にそのあり方が議論されている。しかしながら、今、公的実施を拡充して進めなければならない対象は、現在の助成制度のもとでは放置されている間伐のほか、複層林施業や針広混交林施業にしていくための抜き切りや下層の植栽、天然更新等の適切な実施を図ることである。

 このような対象とすべき箇所がどの程度あるかは、どのような施策によるべきかということも念頭におきながら実行に当たって調査する必要があるが、現在の状況を見れば相当量の規模になると見込まれる。
これらについて公的実施を行う場合、相当規模に及ぶ実行と併せ、その過程で小規模分散的な森林所有を集約化し、まとまりを持った施業団地の形成を図るとともに、路網の整備等を進め、森林施業を継続的に行いうる基盤を作り上げること、また、産出される木材についてその供給が、生産、加工、流通の合理化を進め国産材の有効利用を図るシステム作りに資するものにすることを考えなければならない。つまり、現在の停滞した状況を打開するためには、現行の助成において森林所有者等の負担を求めて整備を行うことが困難な森林が増加してきており公的実施を拡充する必要があるが、このことは、単に公的に実施するということではなく、そのことにより、地域の森林の管理、経営のあり方を改革し、より効果的、効率的に実行しうる基盤を作り上げていく必要がある。公的実施により将来においては、森林所有者等がより自主的に森林の管理、経営を行いうるようにしていくことが重要である。

 以上のようなことを行っていくためには、これまでの枠組みのほか、森林所有者等との調整、現地に即した実行計画の作成や作業の実行等を行っていく組織と仕組みを構築することが必要となる。

 もう一つの問題は、皆伐後の跡地が放置されていることである。そのため、伐採に当たっては市町村長に伐採の届け出が必要とされていたのに対し造林の方法等についても合わせて届け出るようにされたところである。しかしながら、伐採後3年以上放置されている森林の面積は、25千haにのぼり前回調査より増加している。このため、実態についての詳細な調査を行い、この制度の効果を見極めつつ、造林推進方策の見直しや一定面積(例えば5ha)以上の皆伐については、伐採後の造林等を条件にした許可制にすることなど実効ある対策がとられる必要がある。

4.新たな森林管理システムの構築

 以上の通り、公的実施を中核とする新たな森林管理システムを構築することが必要であるが、公的実施については、往々にして非効率になったり、創意工夫が生かされなくなったりという面がみられる。また、森林所有者等の公に対するよりかかりが生じ、森林所有者等の自主的な努力が放棄されることが懸念される。従って、このシステムを担う組織と仕組みの検討に当たっては、公的実施の実行と併せ森林の管理、経営の基盤を作り上げていくという目的はもとより、森林の多面的機能の発揮に関する総合的な技術的能力、事業実施の効率性,実行結果の評価、情報公開の確保に配慮し、効果的、効率的で、かつ弾力的なものになるようにする必要がある。

 これらのことを前提に試案的な具体の構想を示せば次の通りである。

 この組織においては、森林所有者等との調整を図るとともに対象森林の実態把握、実行計画の作成、作業の実施、実施結果の検証等を行うことが必要である。そのため、組織としては現場密着型にすることが肝要であり、少なくとも森林管理の基礎となる流域毎に設置することとする。

 この組織(仮称:流域森林管理センター。以下、「センター」という。)においては、とりまとめ役として経営能力を有する管理職のほか、総合的な技術的能力を持ち調整、調査、実行指導等を行いうる最小限の職員が必要になる。これら役職員は、森林問題を自らの問題として使命感を持つ者が望ましく、任期制とし公募によることも検討する。この場合、地方公共団体、森林組合、民間事業体、NPO等からの出向もありうる。なお、調査や作業の実施等業務の実行については、委託等によりできるだけ民間の活用を図ることとする。

 センターは、地域の森林の状況を把握し、間伐や複層林施業等のための抜き切り、下層の更新等が実施されず放置されている森林がまとまっている区域(例えば、区域面積30ha以上、計画期間の作業面積10ha以上)を対象に、森林所有者の集約化、中期の実行計画(5年間程度)の作成を行う。実行計画では、対象となる区域、所有状況、行うべき箇所別の森林施業等を明らかにする。

 実行計画に基づく作業の実施については、民間事業体等に委託して行う。事業体等としては、森林組合や素材生産業者のほか事業実行体制を有する大規模森林所有者や新規参入者が想定される。委託の実施は、競争による。この場合、適切な実行とともに各事業体等の創意や自主的努力が生かされる仕組みとして、具体的な事業計画に基づく提案型競争によることとする。提案に当たっては、例えば作業道の具体的な計画や作設方法、間伐の選木及び搬出方法等の作業実施の計画のみでなく、それに伴い生産される材の販売のあり方についても検討を求めるとともに必要な経費や収入の見込みを明らかにさせる。なお、販売先等の選定をどのようにするかは極めて重要である。例えば、間伐材が公的に供給される故に販売先や時期が硬直化し、販売先において供給過剰となり値崩れを起こすようなことを生じるとすれば問題である。供給の安定化をいかに需要の確保につなげていくかが課題であり、そのことにより国産材の有効利用を図るシステム作りに資するようにすることが必要である。

 センターにおいては、事業体から提出された提案を審査し委託先を選定する。また、実行結果を検証し、今後の改善に資する。なお、発注については、単年度限りでなく、5カ年程度をとりまとめた上で単年度分を行う。

 このほか、森林所有者等の自主的な取り組みを促進するため、森林所有者等が他の森林所有者の森林を集約化し、公的実施に見合う事業を行う場合には、対象地の状況を調査し、事業計画を作成して事業実施を申請できることとする。センターでは、対象地が公的に実施すべきところであるかを見極めつつ、提出された計画を審査し適切で効率的な実行が確保しうると認められる場合には、実行責任者の明確化、実行結果の報告、開示等を義務付けた上で必要な経費を交付し実行させる。

 センターの活動については、できるだけ公開するとともに、専門的な第三者による委員会を設け、評価を受けるものとする。

 センターの運営については、国、都道府県、市町村が協力して行うこととする。予算措置のほか、国はセンターの実行状況を集約し、全国森林計画に示す大流域における実行結果の調整を行う。また、都道府県と市町村は、地域森林計画及び市町村森林整備計画の実行の観点から必要な指導を行うとともに実行を審査する。この場合、森林整備等により発揮される多面的機能は広域に及ぶものであること、また、森林の所在する地方公共団体の財政事情は概して厳しいこと等を勘案すると、国の役割が重要である。なお、経費としては、作業の実行のほか、森林現況の把握、森林所有者の同意取り付け、審査、実行結果の整理と評価等に要するものについて手当てされることが必要である。これまでは、実行のための経費に重点がおかれ、これらのソフト的経費の必要額が手当てされてきたとはいえないが、実行を適切に行っていくためには、これらに要する経費について、これまで以上に配慮されることが必要である。
経費については、国等の予算措置のほか、上下流の関係団体をはじめ他からの寄付を受けたりするようなことにも努めるとともに、木材の販売代金は組織の収入として費用と相殺できることとする。その意味では、森林所有者等には森林施業を行うことによって費用を負担することがないと同時にこの施業に伴う収入もありえないことになる。このため、本制度の実施については、森林所有者等への強制ではなく、申請によることを原則とし、本制度と従来の助成制度は併存し、森林所有者等が選択しうるものとする。なお、この仕組みは、以上のことからすぐに森林所有者等に直接的な利益をもたらすことにはならないが、森林整備が進むことにより将来的にはより効率的な林業生産活動を行いうる基盤を作り出すことにもつながっており、森林の管理、経営に無関心な森林所有者等への普及と参加の働きかけを積極的に行うことが必要である。

 また、この進捗により公的実施については、将来的には縮小、廃止していくことになろうが、このセンターの活動により森林管理のために必要な仕事とそれを行うためのシステムが定着することになる。
このような公的実施のほか、センターにおいては、必要に応じ、流域全体の森林資源状況の把握や森林計画の作成の受託、流域における木材供給計画の作成等流域の森林の管理経営の全体的とりまとめに関する業務を行うことも可能である。

 以上、新たなシステムの意味と内容を示すため具体的な構想をあげたが、この構想が実現されるためには、センターの法的位置づけ、既存組織との関係等についてさらに検討する必要がある。その場合、センターが国、都道府県、市町村の助成を受け、地域の森林管理、経営に指導的な役割を果たすことからすれば、都道府県及び下流域を含むそれぞれの流域内の市町村が中核となって公的な組織が設置されることが望ましいが、協議機関として設置されている現在の流域森林林業活性化センターの拡充や森林組合、森林整備法人等の既存組織の活用等も含め、期待される業務内容を踏まえつつ地域の実情も勘案し検討されることが求められる。

5.国産材利用の促進

 次は、森林整備の進捗に伴い供給される国産材の利用の促進である。

 わが国の木材需給量のうち国産材の占める割合は2割程度にすぎず、製材用でみても3割程度である。現在では、国産材価格は外材に対し必ずしも高いものとなっておらず、その中で、このように国産材の需要が外材に比較して減退してきた主な要因は、

@質の揃った材が量としてまとまって安定的に供給できていない。

A生産、加工、流通の各段階におけるコストが高い。また、そのため立木価格にしわ寄せが行き、生産意欲を減退させている。

B最終消費者及び施工業者等への働きかけが少なく、それらの者のニーズの把握が十分でない。
等があげられる。

 このうち、@については、国産材の供給可能量は年々増大しており、さらに新たな森林管理システムが実現すれば、センターが供給の下支えをしうることから、安定的な供給を行う基盤が整備されることになる。Aについては、供給側における安定的な生産、供給と合わせて、加工・流通部門における企業の自主的な努力を進めることを基本として合理的な加工・流通に変わりうるのではないかと期待される。
そのためには、第一に、センターを中心としてそれぞれの流域における供給可能量(樹種、長径級別の大まかな供給量)の集約・提示、販売結果の分析による効果的な販売の徹底、加工・流通業者における需要側の工務店、設計者、消費者等との連携の強化、それらを踏まえた自らの経営方針の確立とそのための具体的取り組み等が求められる。

 このような企業等の自主的な合理化努力を進めるとともに、今後の国産材の需要確保のためには、Bの需要者側への働きかけをどう進めるかが重要である。

 このことから第二は、木の良さを生かした木造住宅の提案についてである。これまでの木造住宅は、構造に木が使われているものをいい、極端にいえば、家の中では、どの住宅もビニールクロスで壁が貼られ、一般市民が木造住宅か鉄骨住宅かを見極めることができなかった。もちろんコストダウンは必要であるが、住宅に木を使うことの意味が提示されてこなかったといえる。従って、洋風化した生活習慣に対応する消費者ニーズを考慮しつつも、まず、本来の木造住宅とはどのようなものか、どのように使えば、健康的で人間の感覚にフィットする木の良さを生かすことができるか、どのようにすれば耐久性や耐震性が高まるかなどを追求しそれを具体的に示していくことが必要である。最近、桁や梁の木材が見える「あらわし」の住宅や柱の径を太くした住宅等が見受けられるようになってきたが、構造だけの木造住宅ではなく、新しい木材使用住宅を提案していくべきである。

 第三は、そのことと合わせ、木を使う意味等について最終消費者等に説明と情報開示を行っていくべきである.現在の一般市民等には、木の特性等についての知識や経験に乏しく、木の性質や樹種による違いなどについてほとんど理解されていない。それだけでなく、木材価格についても常識を持ちあわせていない。これらのことは、市民側の問題だけではない。木材業界自体が旧来の慣習に固執し消費者に説明する姿勢を欠いている。例えば、産地や柱一本当たりの価格を表示することが、業界の利益を損なうとの意見もある。しかしながら、国産材の需要拡大をしようとするならば、信頼される製品の供給と合わせ、国産材のことについて科学的データも添えながらわかりやすく説明するとともに、樹種、価格に加え、品質、強度、乾燥割合、産地等について個々にできるだけの情報開示をしていく必要がある。また同時に、例えば、木の使用が地球環境の保全に役立つと主張するとすれば、関係者自らが、木材資源の有効利用や木質廃棄物の減少と活用に取り組むことが必要だろう。そのような活動の中で、木材業界等の主張が消費者に理解されるものとなる。

 第四は、住宅以外の木材利用の拡大についてである。これまで国産材需要については、木造住宅を中心にして議論されているが、今後の住宅需要については、人口の減少、住宅ストックの増加、住宅の長寿命化等に伴い、新設着工量は減少すると見込まれている。このため、今後伸びが期待されるリフォームへの対応はもとより、大型建築物や事務所、商業施設、鉄筋コンクリート施設の内装等に加え、木材を無駄なくかつ二次利用等多段階な利用を進めることも念頭に、ローカルエネルギー源や家畜敷料等としてのバイオマス利用やさらに現在想定されないような新しい木材の使い方も含めて、住宅以外の需要拡大を図る必要がある。そのためには、技術開発が重要であるが、施工の簡略化、設計者や行政等への働きかけ等の努力が求められる。

 第五は、行政の支援についてである。以上のような国産材の需要拡大のためには、木材産業等の自らの努力が重要であるが、木材産業もほとんどが中小・零細企業で既にみたような状況の中、日々の経営に追われ、新たな活動に取り組む余裕を失っている。このため新しい活動を行政がリードすることが期待される。特に林野庁はもとより他省庁、地方公共団体等においても積極的に取り組まれることが求められるが、ここでは、それぞれの行政主体が率先して「木材使用宣言」をされることを提言する。宣言は、建物の建築をはじめ各種公共事業等の実施において、まず、木材の使用を検討することを原則にすることである。事業の実施に当たって、木材が使用できるか、経費の比較や法規制を含めて、できないとすればその理由は何かを検討し、木材の使用が可能なところでは木材を使用することを原則として確立してもらうことである。それにより、行政主体の姿勢が明確になり木材利用が普及すると同時に、木材の利用上の問題点や改善すべき点が明らかになる。

 第六は、国産材利用を進める仕組みの構築である。持続可能な森林経営については、その実施を推奨する森林認証、ラベリングの制度が進められ、環境物品の利用については、グリーン購入法が制定されている。今後においては、環境報告書等の公表を含めさらに企業等の環境行動が活発化することが予想される。欧米では、建築分野においても、使用建材やエネルギー効率等を評価しエコ建物を推奨しようとする動きが活発化しており、わが国でもウッドマイルズやサスティナブル建築等が動き始めている。このようなことを参考に、木材利用の推進に資する効果的な環境行動評価の仕組みを検討することが求められる。森林や環境への関心の高まりは木材の見直しにも関係することとなるが、それを具体的行動につなげる仕組みを作り出す必要がある。

6.求められる早急な実行

 農林業の衰退等により、1980(昭和55)年に527万人いた山村の人口は、2000(平成12)年には451万人まで減少している。このうち、65歳以上の高齢者の占める割合も 28%にのぼっている。また、全国の林業労働者数も同様にこの間において 17万人から7万人に半減している。さらに、森林所有者についても、不在村所有者の割合が増加し25%に達している。

 山村は疲弊し、森林の管理・経営は危機的状況にある。このまま事態が推移すれば、わが国全体の人口が減少する下で、高齢者の割合が高い山村の人口は、さらに急激に減少する。その結果、山村は社会性を喪失し、山村に残されたわが国固有の文化や伝統は失われることになる。そして森林や農地は、自然化していくことになるだろう。森林の多面的機能の高度な発揮を図っていくためには、既に述べたように人間の手入れが必要であるが、そのことが放棄されることにより、これまで長期をかけて造成してきた路網は寸断し、森林にはつる類等が繁茂し、崩壊や風倒木があちこちに見られるようになる。同時に、森林から人間は拒否され、森林はますます人間から遠い存在となる。いわば、このような状況は、山村にとって問題であるだけでなく都市にとっても様々な災いや好ましくない事態をもたらすことになる。そして、問題の悪化に気が付いた時、放棄した森林を改めて人間にとって有用な森林にしていくことは容易なことではなく、多大の労力と経費が必要となる。それだけでなく、その時には、所有境界を明らかにすることができる人さえいなくなっている可能性がある。

 また、森林の管理・経営を行うための技術は、一朝一夕に身につくものではない。体に山の仕事が染み込み一人前の労働者になるためには、数年を要すると言われるが、これからの技術者は、作業をするだけでなく、森林施業や森林植生、野生鳥獣等についての知識を持ち、機械の運転やIT技術等をマスターし、森林の中で自立的に活動することが求められる。林業労働者の25%は65歳以上の高齢者となっており、これからの若い技術者にこれまでの知識と経験を引き継ぎ養成する機会は時間とともに狭められていく。

 今こそ現状を打開し、新たな森林の管理・経営の確立を目指す時である。先送りすれば事態はますます悪化するだろう。

 公的実施の拡充を中心とする新しい森林の管理・経営システムの構築を図るためには、これまで以上に財政的な負担が大きくなる。極めて大まかには、森林整備に公的に負担されている現在の額に対し1.5倍以上が必要になるとされる試算もある。ただし、対象とされる箇所がどの程度にのぼるかはさらに調査する必要があるとともに、これまで以上に実行の効率性を追求すべきことを考えなければならない。いずれにしても、国も地方公共団体も財政的に厳しい中、新たな財政的負担を捻出することは容易ではない。がしかし、事態はそのことを必要とする段階に来てしまっている。地方公共団体では、森林整備に取り組むための費用について十分でないにしても独自に課税しようとする動きが広がっている。国においては環境税の議論がされている。また、一方では、この実施により今後の森林の管理、・経営のための基盤が整備されるとともに資源的な成熟が進むことを勘案すれば、一定の制約を設けながら森林所有者等の自発的活動を誘導していく形に移行させていくことも可能になると想定される。従って、このことが今求められる喫緊の課題であることを踏まえ、この10年間程度を緊急的な期間として特別に対応されることが考えられるべきである。そしてこのことは、京都議定書においてわが国が約束した炭酸ガス6%削減における森林吸収3.9%の目標確保にもつながっている。国際的に森林吸収量として認められるのは、適切な管理・経営が行われている森林に限られるのである。

 国において実施した「緑の雇用担い手育成対策」においては、都市等から新たに林業に就労したいとする若者が多数にのぼっている。政策が実現されれば、それを実行する担い手は育ちはじめている。

おわりに

 森林の多面的機能の高度かつ持続的な発揮を図るためには、森林を公共財として国民全体で支えていくことが必要であり、森林整備の方針を決定する森林計画への国民の参画、公的実施の拡充による新しい森林管理システムの構築及び、森林整備に伴い生産される木材の利用の促進を図る方策について提言した。

 この提言が実施されることにより、それぞれの地域の実情に応じて、大径の針葉樹が屹立する森林、ヒノキ等の針葉樹とコナラやカシの広葉樹が混ざり合った森林、ブナやカエデの四季の変化に富む広葉樹の森林等、多様で活力のある森林が整備されていくことになる。

 国民と森林との関係が希薄化した現在、改めて森林との結びつきを作り出そうとする活動が活発化している。自発的に森林作業を行おうとする森林ボランティア、森林の中で自然を体験しようとするグリーン・ツーリズムや森林環境教育、山村に長期滞在する山村留学等々である。そして、今回の提言は、さらに濃密な森林と国民の関係を作り出す。それは、個人的な保健休養や癒しということだけでなく、森林と人との関係に思いを馳せ、現在の生活のあり方を考えていくことにつながっていく。

 そのことは、また、山村のあり方にも大きな影響を与える。山村は、これまで都市化、工業化されていく社会において、いかにそれに乗り遅れないようにするかが課題だった。しかし、これからは、公的実施の拡充とそれを契機とする国産材利用等の展開により山村に雇用が創出されるとともに、地域の自然や景観、伝統や資源を大切にしつつ環境にできるだけ負荷を与えず、いきいきと暮らす社会を作ろうということになるだろう。そのような山村には、都市住民が新たな価値を見出し、交流が活発化するだけでなく定住を希望する者も出てくる。それは、打ちひしがれた山村の住民に自信をもたらすことになる。

 それらに伴って、緑豊かで美しい日本が再生するとともに、森林と田畑と木に育まれたわが国の文化の新しい展開が始まることになる。また、このことは、カーボンニュートラルな循環型社会の構築に寄与することになる。そしてそのようなわが国の美しい自然とそこで展開される文化的な営みは、国内のみならず国際的にも評価されることになる。

 森林整備の公的実施の拡充等のためには、これまで以上の財政的負担が必要になるが、その効果は森林の適切な管理、経営による多面的機能の高度な発揮にとどまらない広がりを持っている。国民の理解を得ながら、今こそ、現状を打破し新しい地平を切り開く思い切った政策の実施が重要である。

 本提言を足がかりに、新たな森林管理システムの構築に向けて国民的論議が巻き起こり、国民的コンセンサスが形成されることを期待してやまない。


新たな森林管理システム(概案)

1.対象地

森林所有者等が森林整備を実施するとされているもののうち、放置されている対象事業の作業地がまとまっている箇所(例えば、区域面積30ha以上、計画期間の作業面積10ha以上)で森林所有者等の申請するまたは同意が得られる箇所とする。

2.対象事業

基本的には、間伐及び複層林施業の伐採、樹下植栽等の更新、保育作業とする。ただし、皆伐施業の主伐、植栽等の更新、保育作業については、対象地内の小規模なものを含むことができる。

なお、事業を行った箇所については利用制限(例えば10年間の保全)を設ける。

3.組織

地域森林計画の流域毎に森林管理組織(仮称:流域森林管理センター。以下、「センター」という。)を設置する。

センターは、オープンな形で選定される長と、必要最小限の職員で構成する。

センターの役職員は任期制にする。役職員には、技術的知見と実行に対する指導力が求められる。

4.業務センターは、次のような業務を行う。

@森林所有者の参加確認、集約化
A実行計画の作成と森林所有者の同意
B作業の実施
C実施結果の検証
D経費の確保
E関係者及び国民への説明、調整 
Fその他森林計画の作成作業の受託等

5.事業の実施

作業は、民間事業体等に委託して行う。

センターが作成する中期の実行計画(例えば5年間の計画)に基づき、中期間の実行を担う事業実施者を公募する。

民間事業体等は、中期のものと当該年度のものに分けて、森林施業、作業道の作設、生産の見込と販売等の実行、必要な経費等を事業計画としてとりまとめ提出する。なお、販売については、販売の仕方を明らかにして収入についても計上し、必要な経費と合わせて収支を明らかにする。

提出された事業計画等により、センターで事業実施者を選定し、毎年度、年度毎に実際の契約することとする。

事業実施者は、実行が終了した段階で実施結果を報告する。

センターでは、実行結果を検証し、必要がある場合は、補正作業をさせる。なお、実行結果に問題があるものについては、次年度以降契約からはずすこともありうる。

このほか、森林所有者等が、他の森林所有者の森林を集約し公的実施に見合う事業を行う場合には、自ら事業計画を申請して実施することもできることとする。

6.評価

実行計画及び実行結果を第三者として評価する専門家等からなる評価委員会を設ける。

7.経費

必要な経費については、国、都道府県及び市町村からの毎年度の拠出による。そのほか寄付等を受けることができる。また、木材販売による収入があれば充当する。

センターは、実行計画に基づき毎年度必要な予算を都道府県、市町村に申請する。

8.都道府県等への報告

センターは実行結果及び決算をとりまとめ、第三者委員会の評価を受けた後、都道府県、市町村等に報告する。都道府県はそれをとりまとめ国へ報告する。

9.事業実施状況の公開

センターは実行計画の作成、事業実施者の選定、実行結果の検証及び決算等については、できる限り公開する。それにより、特に流域内の関係者及び住民等の意見を聴取する。