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2006年01月31日

NO.314 シルクロードの壁画〜シンポジウム

28日の土曜日は、上野の東京国立博物館平成館に出かけてきました。
「シルクロードの壁画が語る東西文化交流シンポジウム」という催しがあるというので、大部前に往復ハガキで申し込んであったのです。

 午前9:50から18:00まで、6人の講師の講演(1人45分!)その後パネルディスカッションというスケジュール。間にランチタイムとコーヒーブレイク。
 

講演は、
1:シルクロードの壁画(前田耕作 東京文化財研究所客員研究員)
2:ソグドの壁画について(フランツ・グルネ 国立高等研究員フランス)
3:ギリシャ・ローマ時代の文化交流と絵画材料の流通
  (イオアナ・カクウリ カリフォルニア大学/米国)
4:中国西域および敦煌莫高窟における壁画保存について
  (王旭東 敦煌研究保護研究所/中国)
5:日本における壁画保存の歴史と現状
  (三浦定俊 東京文化財研究所情報協力調整官)
6:壁画保存の歴史、現状と課題
  (シャロン・カーター コートールド美術学院/イギリス)

そしてパネルディスカッション・質疑応答 
「シルクロードの壁画:そしてその保存とこれからの課題」
座長:稲葉信子(東京文化財研究所 国際文化材保存修復協力センター)
 出演は、上記の6人のパネラーと稲葉さん。

 このシンポジウムに先立ち「第29回文化財の保存および修復に関する国際研究集会」なるものが行われたとのことで、このシンポジウムはその一環としてのもの。三日間の討議をふまえた上での発言であり、大変に充実した内容だったと思いました。

 中でも稲葉さんのことばやシャロン・カーターさんのことばが印象に残りました。
今、私たちの関わる活動にも関連あることなので、印象に残ったことばだけですが残しておきたいと思います。

 冒頭で座長の稲葉さんが、シルクロードと壁画に関して、東西の文化財保存の専門家が介在していかなければならない様々な問題が集約されている所である、と述べられました。以下この会に関連のあることを主に、抜粋してみます。

・重要なのは、「価値の発見」「保存」。そして、一般の人たちに広く理解してもらう為の様々な工夫。すべてがうまく調和して初めて成功と言える。どれだけ総合的に文化財の価値を発見できるのだろうか。またコンテクスト(周辺状況)が重要であること。

・ 壁画は遺跡の中で最も脆弱な素材である故に保存には困難が伴う。カビの発生の問題や、破壊、盗掘の問題まである。遺跡をそのまま残すことが理想だが、取り外さなければならない状況もあるかもしれない。だが壁画を取り外せば劣化は加速する。次に恒久的な問題が発生する。どうすればいいというのか、、、、という研究者の悩みが伝わってくるようでした。

・ 近年科学が進歩しそれに加えて様々な問題は経験や努力によって克服されるけれど、倫理的なものは科学をもってしても解決できない。

・タリバーンによって大仏が破壊されたバーミヤンでは、文化財保護には直接関係のないことなのに、未だに周辺にばらまかれた地雷を撤去しなければならないという問題まである。
 政治や宗教、経済の現実がある中で、一番大事なのは、しっかりした倫理観がなければならないということ。

・ 文化財というのは、あるレベルに人類が達成したという証なのだ。だから残したい。

最後に
 政治や医療現場でも企業や商業の世界でも様々なところに倫理観が欠如していると言われて久しいこの頃の世相。
 文化財の保存現場においてさえ「しっかりした倫理観が大切です。」ということばを聞いて考え込んでしまいました。
 そして「文化財はあるレベルまで人類が達したという証である」という明確なことばに、このシンポジウムに参加して良かった、とも思いました。どちらもシャロン・カーターさんが言われたことば。早口の同時通訳のことばを必死でメモしましたので断片的ではありますが、ちょっとだけご報告。

 こういう真剣なお話をきくと刺激になりますね。
ではまた、(あし)