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2006年11月20日

NO.348  「風向計」より最新コラム

 当会共同代表のお一人、速水亨さんの最新コラムが届きました。
(11月18日の読売新聞経済面(中部版)風向計に掲載されたもの、中部支社S様が送ってくださいました。)
今回は、森や木材を媒介としての地方文化や地域おこしについてのおはなしです。
http://chubu.yomiuri.co.jp/news_k/fukokei/fuko061118.htm

地方文化育成 広がる有志の「和」

速水林業代表 速水 亨さん
79年から三重県紀北町で家業の9代目に。06年から日本林業経営者協会会長。53歳。

 徳島県の神山町という山間の町を、先日訪れた。「日本文化デザイン会議イン徳島」が開催され、それに参加するためだ。ここは廃校を利用して「アーティスト・イン・レジデンス」という運動を行っている。海外からも含め、アーティストを校舎に住まわせて、作品制作に使ってもらい、その作品を町内に展示している。
 会場に集まったのは、お茶の広告で有名なCMディレクターの中島信也さん、女優の蜷川有紀さんをはじめ、主催する日本デザインフォーラム代表幹事の東京芸大助教授で、世界的なイラストレイターとして知られる日比野克彦さん……。私以外は今の文化を切り開いている著名な方々である。
 町内の「創造の森、大粟山」に点在するアーティストの作品を鑑賞し、夜には女優の山口智子さんも合流し、地方文化の重要性を語り、神山町の素晴らしさをみんなで満喫した。

 森の中に何気なくおかれた石や、丸太で出来た作品、竹が空中に浮かぶような作品、小枝を人の形に盛りあげた作品など、森の中に非日常を創りながらも、周りの自然に溶け込んでいる不思議な空間である。多くの作品が地域にある自然素材で出来ており、時間とともに周囲と同化していく過程を見たような気がした。
 神山町の後藤正和町長は、住民にこのような芸術的な活動を良く理解してもらうには、時間がかかると話していた。今年も11月7日から新規の展示が始まっている。続けることに意義があると思うので、神山町には頑張ってもらいたい。
 実は、私が住んでいる三重県紀北町でも、東京芸大の工芸の先生方が協力してくれて、ものづくりの指導を受けている。地域の特産である尾鷲ヒノキを使った工芸品がほとんどない。この尾鷲ヒノキの素晴らしさを手軽に味わえる工芸を育てるために、時間がかかっても、しっかりと指導してもらおうという目的である。
 参加メンバーで展示会を開いたり、町内の公園に芸大の学生の作品を展示したり、先生方と町内を歩いて、日常では住民が気づいていない美しさを発見したり、紆余曲折はありながらも現在に至っている。資金も様々な団体に補助を申請して活動しているが、来年度は芸大学長の裁量による経費も認めてもらっている。紀北町の奥山始郎町長も芸術に造詣(ぞうけい)が深く、町としても今後の芸大との連携に期待している。

 この活動の面白い点は、地域の有志のほか、事務用品メーカーのコクヨファニチャーがCSR(企業の社会的責任)の一環で派遣してくれた、芸大出身の優秀な女性社員がコーディネイター役となって活動が始まり、そこに行政が協力したことだ。
 このように様々な主体が協力し合って、じっくりと地方文化を育てている。企業の活動としても、大学が外部とかかわっていく方法としても注目すべき活動だと思う。
 地域振興の一つの方法として、神山町が苦労しながら歩んでいる道を、我が紀北町もゆっくりではあるが、多くの方の協力を得て踏み出そうとしている。歩んでいく方向は間違ってはいないと私は信じている。