« NO.355 苦戦中! | メイン | NO.357 シンポジウムが終わりました。 »

2007年01月19日

NO.356 「稼ぎ」と「仕事」の違い考えよう/風向計より

読売新聞S様から、速水さんの「風向計」最新版が届きました。
いよいよ明日が、シンポジウム本番。
まだまだ細かい仕事が終わらず今夜も徹夜の覚悟ですが、、、「忙中閑あり」。
少しだけ息抜きです。
http://chubu.yomiuri.co.jp/news_k/fukokei/fuko070119.htm

「稼ぎ」と「仕事」の違い 考えよう

速水林業代表 速水 亨さん
1979年から三重県紀北町で家業の9代目に。06年から日本林業経営者協会会長。53歳。

 新しい年となり気持ちも新たにと思っていたら、のどが痛くなり風邪を引いてしまった。風邪をひくと「いつひいたのか」などと考えてしまう。考えてもわかるはずもないが、今回は思い当たるふしがある。
 地元で檀家総代を努めさせていただいているお寺の大般若経転読法要に正月早々の五日に出席した。冷え冷えとした広い本堂で石油ストーブひとつ、寒い中での般若経であった。何気なくスーツ一枚で出かけたが、ちょっと寒かったのだ。
 比較的若くして檀家総代となり、ましてや本尊に一番近い席に座る羽目となっている。つまりこの日は、必ず地元にいて出席することが重要な「仕事」始めとなっている。
 会場に集まった檀家総代は、地元の比較的高齢の方々で、顔ぶれが単に有力者というわけではなく、ともかく信頼される人々ということが唯一の選考基準かもしれない。

 田舎に住んでいると、このような稼ぎの伴わない「仕事」が多い。友人で在野の哲学者の内山節氏が以前、「稼ぎ」とは単にお金を手に入れること、「仕事」は自分にとって、社会にとって意味のある働き、というようなことを書かれていたが、全くそうだと思った。
 そう思うと、最近はお金を稼ぐことが第一目的のような話が多い。特に若い人が「早くお金を稼いでお金持ちになりたい」というような希望を聞くことがあると驚いてしまう。
 むろん、お金を稼がなくては食べていけない社会に住んでいるのだから、当たり前ではあるが、以前であれば「ケーキ屋さん」「花屋さん」「大工さん」「野球選手」「看護婦(看護師)さん」「お医者様」「歌手」など、いろいろな将来への希望があったと思う。
 よく考えれば、稼ぎの良い職業であったり、安定した職業などであったりして、「お金持ちになりたい」という気持ちとあまり変わりないのかもしれない。しかし、やはり職業の選択をしているということは、それ自体が社会への第一歩であり、その職業の社会的な意味を考えているのである。

 昨年、関西の大学生十数人が森林見学に来た時に、その中の一人から「年収はいくらですか」と聞かれた。正直な質問だと思ったが、「年収で林業を選択するなら、やめなさい」と答えておいた。林業という「仕事」は以前は良い「稼ぎ」も可能だったというが、今は山を守る気持ちが必須であり、それが無ければ「稼ぎ」も伴ってこない。
 毎日の森林管理が豊かな国土を作っていく林業は、私としては素晴らしい「仕事」をさせていただいていると思っている。
 政府部内でも、これまでの単に物質的な豊かさ達成を前提とした長期計画から、新しい価値観に合わせた様々な計画に変わろうとしている。環境省が漢字の「豊かさ」から平仮名の「ゆたかさ」を使ったり、国交省が「うるわしい」という言葉を入れたりしている。
 国民が住んで良かったと思う国になるためにも、「稼ぎ」ばかりでなく「仕事」を選ぶ若者が増えていってほしいと「仕事」始めで引いた風邪の床で思った。

(2007年1月19日 読売新聞)