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2007年04月22日

NO.378 風向計より 持続的「環境漁業」に商機あり

 読売新聞掲載の風向計(4月6日付け)より。
 当会共同代表のお一人、速水亨さんのエッセイ、少し遅れましたがお届けします。

 今は、市町村合併で紀北町という名前になってしまったけれど、元の町名は海山町。
 山と海と両方の恵みをいただける素敵なところです。

持続的「環境漁業」に商機あり

速水林業代表 速水 亨さん
1979年から三重県紀北町で家業の9代目に。06年から日本林業経営者協会会長。53歳。

 先日の朝、港を散歩した。私の住む集落は、紀伊半島の背骨の大台山系が一気に熊野灘に落ち込む地形で、海岸にある少しだけの平地に500世帯ほどが暮らす漁村である。朝はにぎやかに漁船が出入りし、トラックが鮮魚を消費地に運んでいく。

 養殖魚を扱う知人の仲買に、朝のあいさつとともに最近の様子を聞くと、関東の市場では鮮魚は天然物ばかり求められて、養殖物は売りにくくなっている、と言われた。

 漁業資源は日本人にとって無限の資源と考えられていた。しかし、日本は海に囲まれていても、実際は世界中の海で日本向けの魚が取られて運ばれてくる。

 日本人は1人当たり年間64キロ・グラムの魚介類を食べていて、先進国の中でアイスランドに次ぐ2位の消費量という。最もよく食べられる魚はサケらしい。次にイカ、マグロ、アジがほとんど同じくらいで並び、サケの半分以下になるが、サンマが続く。ところが、日本産の割合となると、サケは58%、イカ65%、マグロ38%、アジ77%だ。サンマだけがすべて日本産である。

 どうも海の資源は危機的な状況らしい。最近ではマグロの漁獲量規制が厳しくなり、マグロが大好きな日本人の口になかなか入らなくなると言われた。正直言って、毎日マグロを食べなくても私は不自由しないが、たまには寿司屋のカウンターで値段を気にしながらであるが口にしたい。

 漁業資源をどう維持していくかは、実は資源問題として見るだけでなく、環境問題として重要になっている。

 海の環境を汚さないという点では、下水処理など様々な工夫がされるようになっている。また、漁業関係者が「森は海の恋人」との合言葉で上流の森林に木を植えてもいる。

 私の関係している林業も同じなのだが、双方とも経済活動の場所となる海と森林、それ自体が生態系のど真ん中にあり、活動のすべてが環境に影響を与えている。そう考えると、天然物ばかりを好む日本の魚食ブームも考えものである。

 近年は養殖現場での安全意識がしっかり定着している。養殖で使える薬剤にも規制があり、コストも含め、薬剤は合理的に使われている。技術的にも稚魚から成魚になる歩留まり率は大きく向上しているらしい。

 海面養殖は、ノルウェーなどでは養殖魚が自然界に逃げ出して、問題を起こしていると聞くので、一概に環境に優しいとは言い難いが、循環型が成立する可能性が高い漁業である。

 漁業は、食の安全と漁獲維持のための資源政策が注目されるが、海の環境に配慮した漁業という視点も重要であろう。

 林業では、生産される森林の環境管理を重視した木材使用を進める国際的なFSC(森林管理協議会)の「森林認証」がある。これと同じように、漁業にも環境管理型の漁業生産物にお墨付きを与えるMSC(海洋管理協議会)の「漁業認証」がある。流通大手のイオンは、認証を受けた水産物のコーナーを作っている。食品なので、消費者の注目も大きい。

 日本の養殖業も、今後は持続的漁業として、食品安全はもちろん、自然の中で生き物を飼うという行為に十分な環境意識を持つことが要求されるし、それ自体がビジネスチャンスとなっていくに違いない。


(2007年4月6日 読売新聞)