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2007年08月28日

NO.403 「風向計」より ーー分收育林と参院選が示す課題

 読売新聞「風向計」より、当会共同代表のお一人、速水林業代表 速水亨さんの文章です。

 緑のオーナー制度や、山側から見た参院選の結果についてのお話。
 山側からの発言、もっと大きく発信したいものです。
  http://chubu.yomiuri.co.jp/news_k/fukokei/fuko070825.htm

 林野庁は、松岡農相の自殺から赤城農相の事務所費問題、緑資源機構の不祥事、国有林の分収育林問題などで、自らの“母屋”に火が回っている状態である。
 国有林のスギやヒノキなどを国と共同所有する分収育林(緑のオーナー制度)の問題は、すでに詳しく報道されているが、現在の林業問題の縮図のようなものである。

 この制度は、1984年度から98年度までに、延べ約8万6000の個人・団体から約500億円を集めた。99年から満期となり始め、立木の販売をしているが、ほとんどが元本割れか、入札しても不成立になっており、購入された方々には、多くの不満が出ている。
 この制度が始まった当時の85年を100とするスギの価格は、06年で22、ヒノキでも36である。輸入材に押されたためだが、我々、私有林の経営者もこれほどの下落は想像していなかった。

 現時点では、伐採時期を延ばすことが一つの解決策と思うが、分収育林は一つの作業単位の森林について多数の出資者がいるだけに、当初計画した伐採の年を延ばすには全員の合意が必要になるため難しい。また、分収育林では契約期間が法律で契約時より60年までと定められている。私の森林では80年以上が伐期となっている。

 分収育林の制度が発表された当時、私有林経営者から見ると、国有林は経営のセンスが無いにもかかわらず、ずいぶん思い切ったことをやるものだと思った。特に、元の設定価格が適切だったかは議論のあるところだろう。
 しかし、国土の66%を占める森林の木材価格がこれほど下落している事実は、国民の多くが知らなかったと思う。今回の分収育林の元本割れの問題は、国民に木材価格の激しい下落を意識させている。

 もう一つ注目すべき点は、7月の参議院選挙の結果である。社会保険庁問題がきっかけで自民党の大敗で終わったが、今回は、小沢民主党党首は1人区重視で農村を中心に選挙活動を展開した。そんな中、菅直人代表代行が、林業の政策提言「森と里の再生プラン」を、6月9日に岡山県北部の真庭市という山の中の地方都市で突然発表した。
 今まで山村では、田舎を考えてくれるのは自民党だけという感じがあった。それは、政権政党でなくては農林業の振興はできないという意味での支持であったとも受け取れる。

 そこに、民主党が農業や林業に対する政策を提案し、それを前面に出した選挙をしたことで、もしかすると農林行政も自民党でなくとも可能なのかと思わせたところが、1人区で自民が敗退した要因の一つと考えられる。林業だけを考えても、これほどの木材価格の下落は、政策の変更が求められるはずなのに、大きな変化が見られない。

 現代社会において、林業をどのように位置づけるのか、また山村は将来の日本において消え行くだけなのか。参院選の結果と分収育林の問題は、政府も各政党も、このような根幹的な問題を政治的な課題として、しっかりとした議論が必要であることを示した“事件”だと思う。

(2007年8月25日 読売新聞)