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2007年11月19日

NO.418 風向計より:足元にある森を守る手立て

 15日の第一回公開講座は、たくさんの方々にご参加いただき大成功のうちに終りました。
 田中利典様のご講演、第二部の内山 節当会共同代表との対談、どちらも大変興味深く面白かったです。
 次回、ご報告させていただきますね。

 今日は、同じく当会共同代表の速水 亨さんのエッセイです。
 少子化を食い止めなくては、と担当大臣まで任命されているのに、産婦人科が閉鎖になる病院が相次ぎ、赤ちゃんが産めない、という矛盾した日本の現実。
 同じような話は森林や建築の問題ともラップします。森林を守りたいのだけど、と訴える声が重奏低音のように聞こえてくるお話です。

 
風向計より:http://chubu.yomiuri.co.jp/news_k/fukokei/fuko071116.htm
足元にある 森を守る手立て

 マンションの耐震データの偽装事件をきっかけに、建築確認の審査を厳しくした改正建築基準法が6月に施行され、新築住宅の着工数が激減している。
 国交省が発表した月別新築住宅の前年同月比を見ると、6月の6%増から突然7月が23%減、8月は43%減、9月は44%減と減少の一途だ。木材を多く使う在来軸組住宅の着工戸数では、7月は22%減、8月は33%減、9月は減少幅が縮小したものの、23%減となっている。

 この影響は国内経済の足を引っ張ることは間違いない。今までの建築確認に欠点があったというより、審査の精度の問題であったから、関係機関が自らの落ち度を設計事務所や建築業につけ回ししているようなものである。
 林業界からみると、一部の国産材がちょうど価格の上昇が見られ始めた時だっただけに、国内林業はまたしても再生の機会を失うかと思うと悩ましい限りである。

 先日、オーストリアを訪ね、林業局の人と話をする機会を得た。「森林政策は第一に木材生産です」と、明解な説明だった。森林の公益的機能は、木材生産を行いながらも充分に発揮できるように、森林所有者に対して、しっかりと経営管理の手助けをしている。

 現地は、日本のように経験に頼った森林管理ではなく、全ての森林所有者が専門教育を受けた森林官と共に管理していく制度を取り入れ、森林官が責任を持って相談に乗り、指導している。適切な森林管理の意識は、様々なところに積極的に木材が使われ、国民にも受け入れられていた。

 高速道路を走ると、防音壁の多くは木材で作られていることに気付く。繊維状の吸音材を木で挟み込んだ比較的単純なものだが、木の張り方を斜めやひし形にしていて、道路に変化を与えている。
 日本でも一部に採用されているが、その量はけた違いだった。オーストリアだけでなく、ヨーロッパ諸国では広く使われて、道路景観の整備に貢献している。木製の防音壁のメーカーもいくつもある。

 木を使うことに肩ひじを張るのではなく、木そのものの持つ素材感や優しさをうまく生かしている。何気なく木が使われ、木材にかかわる産業が発展し、森林管理が持続的に行われている。
 私の山にも伊勢自動車道紀勢線が近々通る。三重県は製材業の数が全国で一番多い県であるが、県内を走る高速道路に積極的に木材が使われているようには見えない。

 ちょうど今からの高速道路の工事は、三重県南部の人工林地帯を突き抜ける。これらの森林は幾世代もかけて育てられた森林である。その中を通る高速道路は、オーストリアで見たように何気なく木材が使われ、ドライバーの目を癒やす。そんな道になればと願う。

 三重県は知事をトップに企業誘致に熱心ではあるが、地元の産業を育成する手立ては足元にもあるような気がする。日本で森が健全に維持される状況を作り出すには、まだまだ時間がかかるのではないか――。今回の新築住宅問題とオーストリアの旅で感じた。

(2007年11月16日 読売新聞)
速水亨さん:速水林業代表:1979年から三重県紀北町で家業の9代目に。06年から日本林業経営者協会会長。54歳。