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2009年05月27日

NO.458  「なぜ、いま 木の建築なのか」おすすめの本

 当会理事の有馬先生が本を書かれました。
 
 <あし>は、この2月末に宮崎に行き、有馬先生が毎年夏、下草刈りに苦労されている山に連れて行っていただいたばかり。やっと大人の背丈くらいまで育ってきた幼木の一本一本をいとおしそうに見ながら、声をかけながら、蔓が巻き付いていたらすぐさま取り払いながら歩かれる、その一生懸命なお姿になんだか胸がいっぱいになりました。
 そのときの感想も含めて、本の紹介をさせていただきますね。
 

「なぜ、いま 木の建築なのか」 
 有馬孝禮 著
  学芸出版社



 
四六判・240頁・定価2100円(本体2000円)


 建築、というと専門書かと身構えるけれど、意外にもかわいい装丁で中をのぞいてみたくなる。
 一章は、日本の木を知っていますか、 二章 木の「強い」「弱い」とは、 三章 木材・木造との付き合いは水とのつきあい…という具合に取っ付きやすい。
 これ一冊あれば木材に関する知識は十分身に付くと言っても過言ではないだろう、データも十分。じつに充実した内容である。それに公平だ。
 そう思いながら四章、五章と読み進んでいって、途中で気がついた。
 この本は、長年にわたって木質や木材、木造建築の研究を続けてこられた著者が、木という素材を通して見た現代社会に警鐘をならしつつ、未来への道筋も示唆された本であると。
 例えば、循環型社会に求められる資源生産の視点、において、
 「平和」とは「生産を生む消費」につながるが、「消費の為の消費」は「戦争」に相当すると断じる。農林業は、平和が前提にあってこそのものであると説き、そして、森林が資源生産の活力を失っての循環型社会などあり得ないし、森林が環境保全の機能を失って成り立つ循環型社会もあり得ないのだと説く。
 そして森林や木材との連携を都市に問い直し、私たちの生活の中に木材資源が保存されることが重要であり、そのためにも社会の連携と仕組みや政策を考えようと提唱される。

 最近、期せずして何人かの方々の主張の中に同一の趣旨、メッセージを見つけてはっとすることがある。
 この本の著者からも受けたそれは、我々が一つ一つ選択する先に未来が見え隠れするというもの。政治や経済といった大きなことばかりではなく、暮らしの中の小さな一つ一つの選択が「平和」にも、そうではない違う道へもつながっているというもの。

 著者ならではの「公平」な視点に加えて、ところどころに、平和であってほしいとの思いがにじむ。木材や、木造建築の分野から見ても、その選択の是非が求められているのかと改めて思う。

 最後に、著者が、一本一本に愛情を注ぎながら山に苗木を植え、育てて行く場面は象徴的だ。小さな苗木に覆いかぶさるように繁茂する草を刈り、巻き付く蔓を切る。
 木とはこんなにも愛情をかけられながら育った素材なのか。
 そんな気持ちで「木の文化」「木の建築」を見なおしてみたくなった。
                             <あし>